速報の余白

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テキスタイルデザイナーによるシルクスクリーン手染め布の作業風景

告野展子 - 手染めの布に宿る物語。テキスタイルデザイナーの世界

布一枚に、ここまで人の気配がにじむことがあるだろうか。量産品が世界中に溢れるいま、あえて一枚ずつ手でプリントすることを選んだデザイナーがいる。テキスタイルデザイナー・告野展子は、シルクスクリーンを使った手染めで製作するテキスタイルブランド「TSUGENO TEXTILE DESIGN」を率いるクリエイターだ。その作品には、機械では生み出せない温度がある。布地の表面をなぞるたびに感じる微妙な濃淡、少しだけズレた輪郭線。それがかえって、使う人の心を掴んで離さない。

告野展子とはどんなデザイナーか

告野展子はテキスタイルデザイナーとして「TSUGENO TEXTILE DESIGN」というブランドで活動し、シルクスクリーンで手染めの生地を制作している。日本国内のファブリック市場でデジタルプリントが主流になっていく中で、彼女は一貫して手仕事にこだわり続けてきた。その姿勢は、単なるノスタルジーではない。手染めだからこそ出せる偶発的な色の重なりや、にじみの表情を、デザインの一部として積極的に取り込んでいる。

告野展子はご自宅にアトリエとシルクスクリーンの装置を備え、デザインから刷りの作業までをすべてご自身の手で行っている。工房と生活空間が同じ場所にある、という働き方そのものが、彼女の作品のインティメートな空気感を生んでいるのかもしれない。外注せず、最初の一筆から最後の一刷りまで自分の手が関わる。それが「TSUGENO TEXTILE DESIGN」の布を他とは違うものにしている理由のひとつだ。

告野展子のアトリエでのシルクスクリーン制作の様子

シルクスクリーン手染めという選択肢

シルクスクリーン印刷は、版を使って染料を布地に押し付ける技法だ。一色ずつ刷り重ねていく工程は、時間も手間もかかる。しかしだからこそ、完成した布には人の時間が蓄積されている。告野展子-デザイナーとして彼女が選んだこの技法は、単なる方法論ではなく、ものづくりへの哲学そのものだと言っていい。

デジタルプリントではなく、一枚一枚手でプリントしていくシルクスクリーンならではの、ほっこりとした味わいと手描きタッチの素朴なニュアンスが魅力だ。工業製品とはまるで異なる、そのあたたかみが、告野展子の布を求める人たちに響き続けている。既製品にはない「不均一さ」が、ここでは価値になる。

また、同じデザインでも使う布の素材や地色によって、まったく異なる表情が生まれる点も興味深い。コットンとリネンでは染料の乗り方が違う。生成りと白でも発色が変わる。告野展子はそうした素材との対話を楽しみながら、毎回の刷りに向き合っている。布との関係は、一方的なものではなく、常に双方向だ。

代表的なモチーフと作品世界

告野展子の作品を語るとき、「りんご」のモチーフを外すことはできない。シンプルなフォルムのりんごは、彼女のブランドを象徴するデザインのひとつとして長く愛されてきた。色を変えて、素材を変えて、それでもりんごはりんごとして布の上に存在する。その反復と変奏の中に、彼女のデザイン哲学が凝縮されている。

nunocotoとのコラボレーションでは「madomado(マドマド)」「ringonomori(りんごの森)」といったテキスタイルデザインを手がけ、都内の雑貨店などで販売されている。「りんごの森」というタイトルが示すように、告野展子の布には物語がある。特定の場所でも、特定の時代でもない、どこかなつかしい風景。そこに触れたとき、使う人はそれぞれ自分だけの記憶を重ねる。

りんごだけではない。小鳥、植物、窓、街並み。告野展子が選ぶモチーフはいずれも普遍的で、しかしどこか個人的だ。誰でも知っているものを、自分だけの視点で切り取る。その距離感が、彼女の作品に独特の親密さを与えている。

りんごモチーフのシルクスクリーン手染めテキスタイル

アユミギャラリーでの展覧会活動

告野展子-デザイナーとしての活動は、工房の中だけに留まらない。東京のアユミギャラリーでは、複数回にわたって個展を開催し、テキスタイルを「布製品」としてではなく「作品」として発表してきた。

アユミギャラリーで開催された「小鳥の記憶」展では、TSUGENO TEXTILE DESIGNの新作を発表した。「小鳥の記憶」というタイトルが持つ詩情は、作品の雰囲気をそのまま言い表している。告野展子にとって、布とはただ服や雑貨になる素材ではなく、記憶や感情を染め込む媒体なのかもしれない。

2013年には「TOKYO」というタイトルでパネル作品を中心とした新作発表会を行い、新しい風景を布に染めた。都市の風景をテキスタイルに落とし込むというアプローチは、従来の「かわいい布」というイメージを大きく広げるものだった。東京という巨大な都市を、シルクスクリーンの版に凝縮させる試み。その大胆さと繊細さが共存する展覧会は、告野展子の新たな側面を見せた。

ギャラリーという空間で布を展示するという行為自体が、彼女のスタンスを物語っている。プロダクトとアートの境界を意識的に揺さぶりながら、テキスタイルの可能性を押し広げ続けている。

ブランド「TSUGENO TEXTILE DESIGN」の軌跡

「TSUGENO TEXTILE DESIGN」は、デザイナー告野展子のテキスタイルな日々から生まれたブランドだ。ブランド名はそのまま、彼女の姓と手仕事への向き合い方を体現している。大きなスポンサーも量産工場も持たず、自分のアトリエから、自分のペースで布を世に送り出す。その規模感が、かえってブランドの純度を保っている。

都内の雑貨店や展覧会、そしてオンラインプラットフォームを通じて、告野展子の布は少しずつ、しかし確実にファンを増やしてきた。一度手にした人が、次もまた別の色を探す。そういう循環が、ブランドを支えている。「一番売れているのはりんごのデザイン」と本人が語るほど、ロングセラーとなったモチーフが存在することは、そのブランドの健全さを示している。

SNS時代に入り、PinterestやTikTokといったビジュアル系プラットフォームでも告野展子の名前や作品が取り上げられるようになった。手仕事の魅力が改めて注目を集めるこの流れの中で、TSUGENO TEXTILE DESIGNの存在感はさらに増している。

TSUGENO TEXTILE DESIGNブランドの布作品

色づくりへのこだわり - 感覚と計算の間で

テキスタイルデザインにおいて、色は命だ。告野展子はその色づくりに対して、驚くほど感覚的かつ論理的なアプローチを持っている。同じ「赤」でも、ほんのわずかオレンジを足せばジューシーな印象になり、ピンクを混ぜれば柔らかくなる。そして、その色がどんな布の上に乗るかによって、最終的な見え方はさらに変わる。

ベースの布との対話を通じて色を決めていく姿勢は、印刷会社へのオーダーシートではなく、その場その場の判断から生まれる。完全な再現性より、その一枚限りの表情を大切にする。それはデジタル化が進む現代のデザイン業界とは、真逆の方向性だ。しかし、その「揺らぎ」こそが告野展子-デザイナーの布を唯一無二にしている。

コラボレーションの際も、相手のニーズと自分の感覚をすり合わせながら色を探す。「ふんわりとした赤」というような言語化しにくい要望を、実際に染料を混ぜながら形にしていく。そのプロセス自体が、職人でもありアーティストでもある告野展子の仕事の本質を見せている。

テキスタイルデザイナーという生き方

日本においてテキスタイルデザイナーという職業は、ファッションやインテリアの分野では知られていても、その仕事の実態は意外と見えにくい。告野展子-デザイナーの活動は、その職業の豊かさと可能性を広く伝えてくれる。

量産システムの外側で、自分のペースで、自分の美意識に従って布をつくる。経済的な合理性だけで見れば、決して効率のいい働き方ではないかもしれない。しかし、それを超えた価値が確かに存在する。一枚の布が手元に届いたとき、受け取った人がその温度を感じる。そこには工場の生産ラインでは生み出せない何かがある。

告野展子の存在は、ものづくりの本質を問い直すきっかけを与えてくれる。スピードより深さ。量より密度。均一性より個性。それらを体現しているのが、TSUGENO TEXTILE DESIGNという小さくて力強いブランドだ。

告野展子の作品が伝え続けること

告野展子-デザイナーの仕事を追うと、一貫した姿勢が浮かび上がってくる。布を通じて、暮らしに物語を持ち込むこと。日常の中に小さな発見をつくること。手染めの生地が子どものワンピースになり、キッチンクロスになり、壁に飾られるパネルになる。そのどの場面でも、布は使う人の生活に寄り添いながら、静かに語りかけている。

展覧会での発表を重ねながら、コラボレーションを通じて新しい使い手と出会いながら、告野展子は自分のペースで布を染め続けている。それは小さな行為に見えて、実は豊かな文化の積み重ねだ。テキスタイルデザインというフィールドで、彼女が手づくりにこだわる理由は、語らずとも、布の表面に刻まれている。

シルクスクリーンの版が布に触れるたびに生まれる、あの一瞬の緊張感。色が染み込んでいく音のない静けさ。完成した一枚を光にかざす瞬間の、かすかな高揚感。告野展子-デザイナーの世界は、そういった積み重ねの上に成り立っている。そこには、量産品には決して宿らない、手仕事の誇りがある。